東電OL殺人事件/佐野眞一 新潮文庫

東電OL殺人事件/佐野眞一 新潮文庫

東電ОL殺人事件佐野眞一
2003/9/1初版、新潮文庫(2000/5、単行本)

彼女は私に会釈して、「セックスしませんか。一回五千円です」といってきました――。古ぼけたアパートの一室で絞殺された娼婦、その昼の顔はエリートOLだった。なぜ彼女は夜の街に立ったのか、逮捕されたネパール人は果たして真犯人なのか、そして事件が炙り出した人間存在の底無き闇とは……。衝撃の事件発生から劇的な無罪判決までを追った、事件ノンフィクションの金字塔」。

東電エリート女性幹部社員

1997年3月、京王井の頭線神泉駅のすぐ近く、渋谷区円山町のアパートで起きた未解決殺人事件、通称「東電OL殺人事件」。被害者が東電エリート女性幹部社員でありながら夜の女でもあったという二面性がマスコミに大々的に取り上げられ、かなりの人の記憶に残っていると思われる。かくいう僕も、その1人。

容疑者として逮捕されたネパール人は冤罪という見方がかなり強く、2000年4月の1審では予想通り無罪となった。しかし控訴され、同年12月の2審では無期懲役の逆転有罪判決。上告したものの2003年10月に棄却され、有罪が確定した。ところが、2005年に再審を請求し、7年後の2012年に再審の開始が認められて刑の執行が停止。同年6月、無実の罪で30歳から15年も収監された刑務所から釈放され、故国ネパールへ帰国することとなった。

この再審請求が認められたころ、僕はフジテレビの「スーパーニュース」でナレーションを担当していたため、そのニュース報道は記憶に新しい。そして10月、被告人不在で行われた再審では無罪判決が言い渡され、ついに無罪が確定した。この冤罪により被告人には補償額いっぱいの1日あたり12,500円換算である6,800万円余りが支払われたという。ちなみに真犯人は2015年12月26日現在、まだ捕まってはいない……。

事件発生から1審判決までを追ったルポルタージュ

という東電OL殺人事件の事件発生から1審判決までを追ったルポルタージュが、この佐野眞一氏による「東電OL殺人事件」。徹底した取材で資料としては非常に価値の高いものだが、随所に佐野眞一氏の私見が詩的に表現され過ぎていて、まるで佐野眞一氏自身を主人公にした「ドキュメンタリー、私の取材手法」といった内容。ナレーターと同じく黒子に徹するのがノンフィクション作家だと思っている僕には、氏が目立とう目立とうとしているようにしか思えず、とても大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している人の文章とは思えなかった。

また、雑誌連載だったからなのか、同じようなことを何度も書かれているのが気になる。単行本化の際に加筆したのであるから、修正もすれば良かったのではないだろうか? だが、なんといっても一番許せないのは、氏がプロローグに書いてある「私の本意は彼女のプライバシーを暴くことではない」「この事件の真相にできるだけ近づくことによって、亡き彼女の無念を晴らし、その魂を鎮めることができれば」「三十九歳の若さで命を落とさなければならなかった彼女の心象に映った風景を忠実に再現してみたいと思った」ということを実現できていないことだ。「なるほど、そういう意図で書かれているのか」と読み進めたが、本意でないと書いておきながら彼女のプライバシーを暴きまくっているし、真相に近づけていないし、氏の想像と思い入れで書かれていることが多く、忠実に再現とは思えなかった。

ちなみに佐野眞一さんは2012年10月、週刊朝日において、先日、大阪市長の任期を満了した橋下徹氏を「父親は被差別部落出身でヤクザ」と糾弾して大問題になった記事のメインライター。僕もチラッと立ち読みをしたが、個人的な恨みがあるかのようなひどい文章だった。続編ともいうべき「東電OL症候群(シンドローム)」を読むべきかどうか悩む……。

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